この記事の3行まとめ
- 顧客は商品そのものではなく、それがもたらす「未来(ベネフィット)」を買っている。
- 「ドリルを売るには穴を売れ」。スペック(特徴)ばかり語るのは、ドリル本体の自慢をしているのと同じ。
- 差別化の鍵は「情緒的ベネフィット」。機能で差がつかない時代、感情的価値こそが選ばれる理由になる。
1. 導入:なぜ高スペックな商品が売れないのか
「こんなに素晴らしい機能があるのに、なぜ売れないんだ?」
「他社より安くて性能もいいのに、なぜ競合の方が選ばれるんだ?」
もしそう感じているなら、あなたは「特徴(Feature)」と「ベネフィット(Benefit)」を混同している可能性があります。
職人肌のフリーランスや技術力の高い企業ほど、自社の「技術」や「スペック」を語りたがります。しかし、残念ながら顧客にとってスペック自体はどうでもいいことなのです。
顧客が本当に知りたいのは「で、それは私の生活をどう変えてくれるの?」という一点だけです。
2. ドリルと穴の理論(レビットの教え)
マーケティングの世界には、あまりにも有名な格言があります。
人々が欲しいのは、1/4インチのドリルではない。彼らが欲しいのは、1/4インチの穴である。
(出典:『マーケティング発想法』セオドア・レビット)

- ドリル: 商品・手段(特徴)
- 穴: 目的・結果(ベネフィット)
顧客はドリルという物体が欲しいのではありません。「棚を取り付けたい」「部屋をDIYでオシャレにしたい」という目的を達成するための手段として、たまたまドリルが必要なだけです。
もし、ドリルを使わずにボタン一つで綺麗な穴が開く魔法の道具があれば、顧客は迷わずそちらを選びます。
これをあなたのビジネスに置き換えてみてください。
- Web制作者が売っているのは「Webサイト(ドリル)」ではなく、「売上アップや採用成功(穴)」です。
- カメラマンが売っているのは「高画質の写真(ドリル)」ではなく、「思い出を鮮明に残す感動(穴)」です。
参考リンク:【マーケティング用語集】ドリルを売るには穴を売れ(グロービス経営大学院)
3. ベネフィットの3階層
ベネフィットには深さがあります。単に「便利になる」だけでなく、顧客の感情や自己実現にまで踏み込むことで、競合との差別化が可能になります。
デビッド・アーカーは、ベネフィットを以下の3つに分類しました。
① 機能的ベネフィット (Functional Benefit)
「便利」「速い」「安い」など、商品のスペックから直接得られる利便性。
- 例:このパソコンは処理速度が速い。
- 例:この洗剤は汚れがよく落ちる。
- 弱点:すぐに競合に真似され、価格競争に陥りやすい。
② 情緒的ベネフィット (Emotional Benefit)
商品を使うことで得られる「安心感」「優越感」「ワクワク」などの感情。
- 例:MacBookを開くと、クリエイティブな仕事ができそうな気分になる(高揚感)。
- 例:この保険に入っていれば、万が一の時も家族を守れる(安心感)。
- 強み:感情に訴える価値は真似されにくく、ファン化につながりやすい。
③ 自己表現的ベネフィット (Self-expressive Benefit)
その商品を使うことで「理想の自分」になれる、あるいは「自分らしさ」を表現できる価値。
- 例:高級車に乗ることで、成功者としてのステータスを感じる。
- 例:エシカルな商品を買うことで、社会貢献している自分を肯定できる。
参考リンク:ベネフィットとは?(ALL DIFFERENT株式会社)
フリーランスこそ「情緒的価値」を売れ
現代は技術の進化により、機能的ベネフィットでの差別化が困難になっています(コモディティ化)。
個人や小規模事業者が大手と戦うなら、「あなたと仕事をすると、どんな気持ちになれるか」という情緒的ベネフィットを磨くべきです。
- 「ただHPを作るだけでなく、悩みを親身に聞いてくれて安心できた」
- 「あなたの写真をSNSに載せたら、周りから褒められて自信がついた」
これこそが、選ばれる理由になります。
もちろん一定以上の能力(機能的ベネフィット)を持っていなければ選ばれる土俵に上がることすらできませんが、そこから「選ばれる」まで行くには確実に情緒的要素が必要です。
パーパス経営と自己表現的ベネフィット
また、近年注目される「パーパス経営」は上記の自己表現的ベネフィットを最大化する戦略です。
企業が「なぜやるのか(Purpose)」を掲げ、それに共感した顧客が商品を買うとき、顧客は単にモノを買っているのではなく、「その理念を支持する自分」というアイデンティティを買っているのです。
- 「環境保護を掲げるパタゴニアを着ることで、自分も環境意識が高い人間だと表現できる」
- 「あなたの事業の理念に共感したから、あなたに仕事を頼むことで応援したい」
小規模事業者こそ機能ではなく「想い(パーパス)」を語り、顧客の自己表現欲求を満たすパートナーになるべきです。
パーパス経営についてはこちらの記事で詳しく触れています。

4. 特徴をベネフィットに変換する「FAB分析」
では、自商品の特徴をどうやってベネフィットに変換すればいいのでしょうか?
「FAB分析」というフレームワークを使うと簡単です。
| Feature(特徴) | 商品の仕様、スペック、事実。 |
| Advantage(優位性) | 特徴がもたらす機能的な強み。 |
| Benefit(利益) | 顧客が得られる最終的なハッピーな未来。 |
変換の魔法の言葉:「だから何?(So What?)」
特徴に対して「だから何?(だからどうなるの?)」と問いかけ続けることで、ベネフィットが見えてきます。

例:高機能なWebカメラ/マイクの場合
- 特徴:「4K解像度で、AIノイズキャンセリング機能付きです」
- (だから何?)
- 優位性:「薄暗い部屋でも明るく映り、雑音を消してクリアな音声を届けられます」
- (だから何?)
- ベネフィット: 「大事な商談で、相手に『信頼できるプロ』という印象を与え、成約率アップに貢献します」
ここまで言語化できて初めて、顧客は「自分のための商品だ」と認識します。
5. アクションプラン
あなたのビジネスで「FAB分析」を実践してみましょう。
- 特徴の棚卸し:自分の商品・サービスの「特徴(事実)」を書き出す。
- 「だから何?」と問う:それが顧客にとってどんな良いことがあるのか、深掘りする。
- 3つのベネフィットに分類する:
- 機能的:「要するに何が便利?」
- 情緒的:「どんな気分になれる?」
- 自己表現的:「どんな自分になれる?」
特にWebサイトやチラシのキャッチコピーを作る際は一番下の「ベネフィット」を大きく打ち出してください。特徴はあくまでそのベネフィットを信じてもらうための「証拠(Evidence)」として添えるのが正解です。
6. まとめ
- 顧客は「ドリル」ではなく「穴」を求めている。
- 機能(スペック)だけを語っても響かない。「だから何?」でベネフィットに変換する。
- 機能的価値だけでなく、感情を動かす「情緒的価値」を提供できれば、価格競争から抜け出せる。
次回は、これらの価値を上手に届けるための商品戦略について解説します。
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