この記事の3行まとめ
- 経営の目的は利益追求ではなく、「負けない経営(倒産しない)ための仕組み」を作ること。
- 利益は贅沢のためではなく、明日も事業を続けるための「参加権(コスト)」である。
- 利益 = 売上 – (経費 + 税金)。経費削減には限界があるため、売上を上げ続けることが生存の絶対条件。
1. 導入:なぜ今、経営を定義し直すのか
「売上はある程度あるのに、なぜかいつもお金がない」
「忙しすぎて新しいことに手が回らない。一生このまま働き続けるのか?」
もしあなたが今少しでもそう感じているなら、それはあなたの能力不足ではありません。
「プレイヤー(職人)」としての働き方と、「経営者」としての働き方の違いを、明確に定義できていないことが原因である可能性が高いです。
フリーランスや個人事業主として独立した人の多くは、高いスキルを持った職人です。しかし、どれだけ腕が良くても経営の視点がなければ「自分が止まれば収入も止まる」というリスクからは逃れられません。
この記事では、曖昧になりがちな「経営」という言葉を僕のフリーランス10年の経験を元に小規模事業者の現場レベルで使える形に再定義します。

2. 経営の絶対目的:負けない経営をすること
結論から言えば、経営とは 「倒産しない(負けない)仕組みを作り継続させること」です。
会計用語で 「ゴーイング・コンサーン(継続企業の前提)」 という言葉があります。企業は「終わりのないマラソン」を前提としているという意味です。
利益は「目的」ではなく「条件」
よく「経営の目的は利益を出すことだ」と言われますが、ピーター・ドラッカーはこれを否定しています。彼は「利益は目的ではなく、存続のための条件(コスト)である」と言いました。
企業の目的は、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的の定義は一つしかない。それは、顧客を創造することである。
- 目的:顧客に価値を提供し続けること(顧客の創造)
- 条件:その活動を明日も続けるために必要な燃料(=利益)を確保すること
つまり、利益を出さなければならない理由は、贅沢をするためではなく「明日もビジネスという名のゲームをプレイし続ける参加権」を買うためなのです。この視点を持つと、利益目標の立て方が変わります。「欲しい金額」ではなく「生き残るために必要な金額」が見えてくるはずです。
参考リンク:【ドラッカーの全て】5分でマネジメントから名言までを解説(Life&Mind)
3. 利益の構造を「正しく」理解する
では、その生き残るための燃料(利益)はどう計算すべきでしょうか。
基本の方程式はシンプルです。
利益 = 売上 – (経費 + 税金)
この式から、利益を増やす方法は「売上を上げる」か「経費を下げる」かの2つしかないことがわかります。
しかし、売上を作るために必要な経費を削るには限界があります。そもそも売り上げを上げるには一定の経費を利用して商品を作り必要があるからです。削りすぎればサービスの品質が落ち、本末転倒です。
したがって「売上を上げていくこと」こそが負けない経営の鉄則となります。
しかし、多くの個人事業主がここで2つの致命的なミスを犯します。
ミス①:自分の人件費を経費に入れていない
「売上が50万で経費が10万だから、40万の利益だ!」と喜んでいませんか?
もしその40万があなたの生活費に消えているなら、事業としての利益はゼロです。あなたが倒れた瞬間、その事業は赤字に転落します。これを「黒字倒産予備軍」と呼びます。
ミス②:税金を考慮していない
利益が出た翌年にやってくる住民税や予定納税で資金ショートするパターンです。税金は「利益確定後に払う罰金」ではなく、「事業継続のための必要経費」として最初から計算に組み込む必要があります。

正しいマインドセット
「売上から経費を引いて残ったのが利益」という成り行き経営を卒業しましょう。
「生き残るためにこれだけの利益が必要だから、逆算して売上と経費をコントロールする」という逆算経営が、経営者の思考です。
4. 経営者の2つの役割
経営者の仕事を分解すると、究極的には以下の2つに集約されます。
① 価値交換の設計
ビジネスの本質は「価値と価値の交換」です。
顧客はお金(価値)を払い、あなたは何らかの解決策(価値)を提供します。
- Who:誰の悩みを解決するのか?(ターゲット)
- What:どんな価値を提供するのか?(商品・サービス)
- How:どうやって届けるのか?(マーケティング・モデル)
この3つを一貫性のあるシステムとして設計するのが経営者の仕事です。
② リソース配分(ROIの最大化)
手持ちの資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間)をどこに投下すれば、最もリターンが大きいかを決めること。これをROI(投資対効果)と言います。
特に小規模事業者にとって最も重要なリソースは「時間」です。
「自分でやればタダだから」と、時給1000円で外注できる事務作業に自分の時間を使い込んでいませんか? それは経営判断として「自分の時間を安売りする」という誤った配分をしていることになります。
5. 「職人」と「経営者」の決定的な違い
あなたが今、「職人」として働いているのか、「経営者」として働いているのか。以下の表でチェックしてみてください。
| 項目 | 職人(プレイヤー) | 経営者(マネージャー) |
|---|---|---|
| 稼ぎ方 | 自分のスキルと時間を切り売りする | 他人の力や仕組みを活用して価値を生む |
| 収入の限界 | 自分の稼働時間に依存する(上限あり) | 仕組みの拡張性に依存する(青天井) |
| 自分が休むと | 収入が止まる | 収入は継続する |
| 関心事 | 「どうすればもっとうまく作れるか」 | 「どうすれば自分がいなくても回るか」 |

アクションプラン:脱・職人への第一歩
いきなり現場を離れる必要はありません。まずは「業務の棚卸し」と「マニュアル化」から始めましょう。
「この作業は、自分じゃなくてもできるのではないか?」と疑うこと。それが経営者としての第一歩です。
使えるものはどんどん使って仕組み化していきましょう。
6. 最新トレンド:パーパス経営と人的資本
最後に、現代の経営において無視できない2つのトレンドを紹介します。
パーパス経営:「なぜやるのか」が最強の差別化
機能や価格での差別化は、すぐに真似されて限界がきます(コモディティ化)。特にAIが実用レベルに達し、激しい競争の中で加速度的に成長している現在においてはより顕著です。
しかし、「なぜこの事業をやっているのか」という想い(パーパス)は誰にも真似できません。
特にこれからの時代、顧客は「何を買うか」以上に「誰から買うか」「どんな想いに共感するか」を重視します。小規模事業者こそ、個人のストーリーを前面に出したパーパス経営が武器になります。
参考:パーパス経営とは?注目される背景やメリット・デメリット、事例を解説(ツギノジダイ/朝日新聞社)
人的資本経営:自分自身を「資本」と捉える
フリーランスにとって、最大の資本は「自分自身」です。
PCや機材には投資するのに、自分の健康やスキルアップ(リスキリング)への投資を惜しんでいませんか?
自分を使い潰すのではなく「自分という資産の価値をどう高め、長く運用するか」という視点を持つことも、立派な経営戦略です。
経済産業省も「人材版伊藤レポート」などで人的資本経営を推進しており、これは大企業だけでなく個人のキャリア戦略にも通じる考え方です。
参考:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~ (METI/経済産業省)
7. まとめ・次のステップ
経営とは、難しい数式を解くことではありません。
「負けない戦いをするために、継続する仕組みを作ること」です。
明日からできる最初のアクションとして、以下を試してみてください。
- 自分の「実質時給」を計算する: (月の売上 – 経費)÷ 稼働時間
- 利益目標を設定する: 生活費を除いた上で、未来への投資(機材、学習、外注費)にいくら回したいかを決める
「仕組み」を作るためには、まずその源泉となる「売上」をどう作るかを理解する必要があります。
次回は、売上を科学的に分解してコントロールするための「売上の方程式」について解説します。
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